母子家庭で大学に行きたい子を支援、大学無償化を知っていますか?

今は高校生の6~7割は大学に行くといわれる時代、そしていい大学に行っていい会社に就職する、それが一番安定した生活ができる、と言われていますよね。反対意見は色々あると思いますが、やっぱり大学を出ておかないと、と考える親御さんは多いでしょう。

実際、今の求人情報や就職状況を見てみますと、いわゆる「いい大学」を出た学生が就職に有利になっているのは、実は昔とそれほど変わっていない、という現実があります。

また、「いい大学」ではなくても、高校卒業の子より大学を出た子の方が成績に関係なく初任給は高いのが一般的で、その後の昇給や昇格なども差が出てきています。

母子家庭であっても、子供は大学まで行かせたいですよね。でも一番問題になるのが、やっぱりここでも教育費でしょう。入学費から始まって、毎年の授業料やテキスト代、サークル代など、高校時代と比べると出費は一気に増えてしまいます。

そのため、大学に行かせたいし子供も行きたがっている、成績もそれほど悪くないけど、経済的に無理なのであきらめるしかない、という母子家庭の方は多いでしょう。

しかし、そのような家庭の子供さんと一般の子供さんが、学校の成績ではなくて経済的な理由だけで受けられる教育に格差ができることが国として問題、という意識が文部科学省の中で高まり、その結果、2020年4月に新しく「高等教育の修学支援新制度」が制定されました。

「高等教育の修学支援新制度」とは、ちょっと聞きなれない制度ですね。でもこれは別名「大学無償化」と呼ばれており、この「大学無償化」という言葉なら聞いたことがある方は多いのではないでしょうか?

この大学無償化、つまり高等教育の修学支援新制度が利用できれば、母子家庭やひとり親家庭などの経済的に苦しい家庭でも、子供を大学に行かせられる機会が大きく増えることから、ここではその内容や利用できる条件などを調べてみましたので、紹介したいと思います。(以降、高等教育の修学支援新制度は、聞き覚えのある「大学無償化」という言葉で統一します。)

目次

母子家庭が利用できる大学無償化とは?

まず、大学無償化とは何か、知りたいですよね。文部科学省のホームページから抜粋して紹介します。

◎高等教育の修学支援新制度

文部科学省では、しっかりとした進路への意識や進学意欲があれば、家庭の経済状況に関わらず、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校に進学できるチャンスを確保できるよう、令和2年4月から高等教育の修学支援新制度を実施しています。

と記載があります。

平たく言えば、「子供に勉強する意欲があれば進学できるように国は支援しますよ」ということでしょうか。子供を何とかして大学に行かせたい、と思っている母子家庭にとっては、これはとても助かる支援でしょう。

でもこれだけでは何を支援してくれるのか、イマイチわからないですよね。そしてこれは先に言ってしまいますが、意欲があれば誰でも支援を受けられる、というわけではなく、支援を受けるためには所得や子供の成績などに条件があり、それをクリアしなきゃいけない、というハードルがあります。

そこで次に、実際どのような支援があるのか、そして条件とは何か、についてみていきます。

母子家庭が利用できる大学無償化の支援内容は?

支援の内容

支援の内容は、具体的には経済的な支援、つまり費用の援助になります。対象になるのは

① 授業料・入学金
② 奨学金

の2つで、①は免除、あるいは減額、②は給付型の奨学金で生活費を支給、という支援です。

① 授業料・入学金

授業料等減免とも呼ばれますが、どのような時に免除になって、どうなると減額になるのかが気になりますよね。これは先に、支援を受けるために条件がある、と言いましたが、その条件から決まってきます。

② 奨学金

給付型の奨学金というのは、返さなくてもいい奨学金のことを言います。

奨学金は普通、学校を卒業したら返さないといけないけど、結構大変、という話を聞きますよね。でも大学無償化なら、返す必要はありません。こちらも①と同じように、利用するための条件があります。

母子家庭で大学無償化を利用できるのは?

大学無償化を利用できる母子家庭は、文部科学省のホームページでは、次のように定義されています。

支援の対象者の認定要件として

1.家計の経済状況に関する要件
・所得
・資産
2.学業成績・学修意欲に関する要件
3.国籍・在留意欲に関する要件
4.大学等に進学するまでの期間に関する要件

の4つの要件がもうけられています。

ひとつづ見ていきましょう。

1.家計の経済状況に関する要件

・所得

ここで所得というのは世帯所得のことで、母子家庭なら、母親の収入以外に子供がバイトなどして収入がある場合は、合計した金額が所得として扱われます。

文部科学省のホームページには計算式や基準額が書いてありますが、正直、とってもわかりにくいです。そこで、ぱっと見でもわかりやすくまとめた表もありましたので、紹介します。

区分住民税非課税準ずる世帯準ずる世帯
支給額全額3分の23分の1
子一人~約210万円 ~約300万円 ~約370万円
子二人~約270万円 ~約360万円 ~約430万円
子三人 ~約270万円 ~約360万円 ~約430万円

この表からわかるように、支給額は「満額」「2/3支給」「1/3支給」の3種類あります。(金額に「約」がついているのは、1万円の位を四捨五入しているからです。)所得が増えるほど支給額は少なくなるのは、至極当然ですね。

また、「住民税非課税」というのは、生計を同じくしている世帯人員のすべてが住民税非課税であることを意味しており、「それに準ずる世帯」とは、生計を同じくする世帯人員の誰かは、住民税が課税される所得がある世帯のことを意味しています。

母子家庭で2人世帯の場合、年収210万円以下の所得なら全額が支給されます。年収210万円ということは月収約18万円ですから、大学はほとんど無理ですよね。そう考えると、大学無償化の制度は確かに大きな支援になります。

・資産

ここで資産というのは、現金、預貯金、有価証券のことで、一般的には資産に扱われる不動産は含まないことになっています。また、資産を持っているのが母親だけでなく、子供が資産を持っていたら、合計した金額で判断されることになっています。

大学無償化の条件としては、資産の合計金額の上限が次のように決められています。

生計維持者が2人のとき:2,000万円未満
生計維持者が1人のとき:1,250万円未満

この条件は、多くの母子家庭の方は問題ないでしょう。というのは、持ち家があるならともかく、不動産なしでこれほどの資産を持っていることは少ないと思われるからです。

2.学業成績・学修意欲に関する要件

先に文部科学省のホームページに、「しっかりとした進路への意識や進学意欲があれば」支援します、とあると書きました。そしてこれは、大学無償化を受ける条件にもなっています。具体的には

高校2年次までの成績をあらわす評定平均値が

・3.5以上 → 進路指導等で学習意欲を見る
・3.5未満 → レポートあるいは面談で学習意欲を確認

となっています。

まず評定平均値で成績が判断され、その次に学習意欲が判断される、ということですね。

進路指導やレポート、面談は、子供が通っている学校が、文部科学省から出ている指導要領に従い、実施することになっています。

3.国籍・在留意欲に関する要件

簡単に言うと、日本人か、そうではない場合は永住者であること、です。

文部科学省のホームページには

① 日本国籍を有する者
② 法定特別永住者として本邦に在留する者
③ 永住者、日本人の配偶者等又は永住者の配偶者等の在留資格をもって本邦に在留する者
④ 定住者の在留資格をもって本邦に在留する者で永住者若しくは永住者の配偶者等に準ずる者とその者が在学する学校の長が認めたもの(=将来永住する意思があると認められた者)

と記載があります。

4.大学等に進学するまでの期間に関する要件

高校3年生で大学無償化を申請し認められたら、その翌年度に大学に入学するのが一般的だと思いますが、何らかの事情で翌年度には入学できなくなったとき、いつまで入学を猶予されるか、その期間が決められています。

文部科学省のホームページには

① 高校等を初めて卒業した年度の翌年度の末日から、確認大学等に入学した日までの期間が2年を経過していない者
② 高卒認定試験合格者等については、当該試験受験資格取得年度の初日から認定試験合格の日までの期間が5年を経過していない者(5年を経過した後も引き続き進学しようとする大学等における修学意欲を有する者として日本学生支援機構が認める者を含む。)であって、合格した年度の翌年度の末日から確認大学等に入学した日までの期間が2年を経過していないもの
③ 「個別の入学資格審査」を経て大学等への入学を認められた者については、20歳に達した年度の翌年度の末日までに確認大学等へ入学した者

と記載があります。もしどれかに当てはまるのなら、期限を忘れないようにしましょう。

母子家庭が大学無償化で受けられる支給額は?

入学金・授業料の減免

大学無償化で支給される金額は、学校が公立は私立か、昼間制か夜間制か、あるいは通信制かによって変わり、入学金、授業料それぞれに金額が設定されています。母子家庭で子供は昼間はバイトで忙しい、という場合でも、夜間制、通信制も大学無償化の対象になっているので助かりますね。

<昼間制>

国公立私立
入学金授業料入学金授業料
大学約28万円約54万円 約26万円 約70万円
短期大学 約17万円 約39万円 約25万円 約62万円
高等専門学校 約8万円 約23万円 約13万円 約70万円
専門学校 約7万円 約17万円 約16万円 約59万円

<夜間制>

国公立私立
入学金授業料入学金授業料
大学約14万円約27万円 約14万円 約36万円
短期大学 約8万円 約20万円 約17万円 約36万円
専門学校 約4万円 約8万円 約14万円 約39万円

<通信制>

私立
入学金授業料
大学
短期大学
専門学校
約3万円約13万円

上の表は住民非課税世帯の場合で、住民非課税世帯に準じる世帯の場合は、所得によって2/3、あるいは1/3の支給となります。

またいずれも金額は支給の上限で、この上限内で実際にかかった金額が支給されます。

給付型の奨学金

支給される金額は同じように、公立か私立か、昼間制・夜間制か通信制かによって変わります。奨学金は生活費の支給が目的のため、自宅生か自宅外かでも支給額は変わります。

〈昼間制・夜間制〉(月額)

国公立私立
自宅生自宅外 自宅生 自宅外
大学
短期大学
専門学校
29,200円66,700円38,300円75,800円
高等専門学校17,500円34,200円26,700円43,300円

〈通信課程〉(年額)

私立
自宅生 自宅外
大学
短期大学
専門学校
51,000円

母子家庭が大学無償化を利用するまでの流れ

大学無償化を母子家庭が利用するまでのおおまかな流れです。

入学前年度

3月~4月:成績など、自分が条件にあてはまるか、志望校が大学無償化の対象になっているか、確認
4月~5月:給付型奨学金を申請する場合は、通っている高校で申し込みのための書類をもらい、ネットで日本学生支援機構に申し込む
8月~9月:選考結果の連絡

入学年度

入学時:進学する大学に入学料・授業料減免を申請、奨学金を申し込んでいた場合は、日本学生支援機構に進学届を出す

この流れからわかるように、実際の申し込みは、奨学金は入学前、入学金・授業料減免は入学後となります。

また、日本のほとんどの大学は大学無償化を利用できるようになっていますが、まれに利用できない学校もあるので、必ず確認した方がいいですね。

大学無償化が受けられるかどうかは子供の成績がかかわってきますが、大学に行きたい、行って○○を勉強したい、といった強い意志・意欲が子供にあれば、母子家庭であってもあきらめる必要はありません。思い切って申請してみましょう。

目次