「申し付かる」とは何か?ビジネスシーンでの正しい敬語表現と使い方

「申し付かる」という表現は、ビジネスシーンでよく耳にする敬語表現の一つです。特に秘書や接客業など、丁寧な言葉遣いが求められる職種では重要な言葉遣いとされています。この言葉は「言い付けられる」の丁寧な言い方として使われることが多いですが、実際の用法や正確な意味については様々な見解があります。

日本語の敬語表現の中でも特に微妙なニュアンスを持つこの言葉について、正しい使い方を理解することは円滑なコミュニケーションに欠かせません。「申し付かる」は古語の「申しつく」から派生した表現で、受身形として発展してきました。

この記事では「申し付かる」の語源から現代における使い方、適切な場面や代替表現まで、ビジネスパーソンが知っておくべき敬語の知識を解説します。正しい敬語を身につけて、ビジネスシーンでの信頼関係構築に役立てましょう。

目次

「申し付かる」の意味と正しい使い方

「申し付かる」は他者から指示や依頼を受けたことを丁寧に表現する言葉です。語源は古語の「申しつく」で、その受身形として現代にも残っています。大辞典には掲載されていますが、一般的な国語辞典には載っていないことも多い表現です。

この表現はビジネスシーンにおいて、特に顧客対応の場面で使われることが一般的です。上司や顧客からの指示を第三者に伝える際に「〇〇より申し付かっております」という形で用いられます。秘書検定のマニュアルにも登場する表現で、フォーマルな場面での使用に適しています。

使用する際には、単に「言われた」より丁寧な印象を与えますが、上下関係を強調するニュアンスも含むため、使う相手や状況を見極めることが重要です。特に同僚間のコミュニケーションでは、過度に堅苦しい印象を与える可能性があります。

「申し付かる」という言葉の語源と定義

「申し付かる」という言葉は、古語の「申しつく」(もうしつく)を語源としています。この古語は「言いつける」の荘重な言い方であり、現代語の「申し付ける」(目上の者が目下の者に指示する)に対応します。「申しつく」の未然形「申しつか」に文語の受身の助動詞「る」が付いた形が「申し付かる」です。

日本国語大辞典(第二版)には「申し付かる」の項目があり、「申し付けられる」「言いつかる」の意味として掲載されています。用例として「先生から申し付かったことを果たす」といった使い方が示されています。ただ、広辞苑など一般的な国語辞典には掲載されていないケースが多く、一般的な認知度は高くないと言えるでしょう。

「申し付かる」は「目上の人から指示を受ける」という意味合いを持ちます。この表現自体に謙譲の意味はなく、「申す」の部分は「言う」の荘重体(重々しく言う形式)とされています。語感としては「命じられる」よりは柔らかく、「言われる」よりは丁寧な印象を与えます。

「申し付かる」を使う場面は限定的で、主にビジネスシーンや改まった場での使用に適しています。日常会話では「言われた」「頼まれた」などの表現で代用されることが多いです。特に秘書業務や接客業など、丁寧な言葉遣いが求められる職種では重宝される表現と言えるでしょう。

「申し付かる」は動詞として活用し、「申し付かります」「申し付かりました」などの形で使用されます。多くの場合、「〇〇より申し付かっております」という形でビジネス文書や電話応対などに登場します。

「申し付かる」と「申し付けられる」の違いと使い分け

「申し付かる」と「申し付けられる」は意味としては似ていますが、語感や使用場面に微妙な違いがあります。「申し付けられる」は「申し付ける」の口語的な受身形であるのに対し、「申し付かる」は文語的な受身形で、より古風で格式高い印象を与えます。

使い分ける際のポイントは、フォーマル度と相手との関係性です。「申し付かっております」は特に顧客対応など外部の人物に対して使うことが多く、社内の上司からの指示を顧客に伝える場合に適しています。一方、「申し付けられております」は少しカジュアルな印象があり、命令調のニュアンスが強く出ることがあります。

実際の会話では、「部長より申し付かっております」と言うと、丁寧でありながらも自然な印象を与えられます。「部長より申し付けられております」だと、上司と自分の関係性が強調され、命令を受けている印象が強くなります。顧客対応では前者のほうが好ましいでしょう。

職場での使用頻度を比較すると、「申し付かる」は接客業や秘書業務など特定の職種で頻繁に使われる傾向にあります。一般的なビジネスシーンでは「承っております」「伺っております」といった別の敬語表現が好まれることも多いです。

言葉のリズムという観点からも違いがあります。「申し付かっております」(9音節)は「申し付けられております」(11音節)より短く、発音しやすいという利点があります。電話応対などで素早く丁寧に対応したい場合には効果的です。

ビジネス敬語としての「申し付かる」の位置づけ

ビジネス敬語の体系の中で「申し付かる」は、公式な場での伝言や指示の伝達に使われる丁寧表現として位置づけられています。特に顧客対応や取引先とのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たします。

ビジネスシーンでの典型的な使用例としては、「社長より申し付かっております」「担当者より申し付かっております」などがあります。これらは上司や同僚からの指示や依頼を第三者に伝える際に使用されます。電話応対や接客の場面では特に有用性が高いと言えるでしょう。

企業における敬語教育では、「申し付かる」は中級〜上級レベルの敬語として扱われることが一般的です。新入社員研修などでは基本的な敬語を先に学び、その後キャリアを積むにつれて「申し付かる」のような少し高度な表現を習得していくケースが多いです。

秘書検定のテキストには「〇〇様に〇〇(上司)より申しつかっております」という例文が掲載されていることからも、ビジネスマナーの一環として認識されていることがわかります。特に取引先や顧客との対応において、社内の人間(上司や同僚)について言及する際に使う表現として定着しています。

デジタル化が進む現代のビジネスシーンでも、「申し付かる」のような伝統的な敬語表現は重要性を失っていません。むしろメールやチャットなどの文字ベースのコミュニケーションでは、丁寧さを表現するために意識的に使われることもあります。

敬語の種類から見る「申し付かる」

敬語の分類において「申し付かる」がどこに位置づけられるかは、実は単純ではありません。この表現を謙譲語と考える人もいれば、丁重語(謙譲語2)と捉える人もいます。「申す」という部分は一般的に謙譲語ですが、「申し付かる」という複合形になると微妙なニュアンスが生じます。

敬語の五分類(尊敬語・謙譲語1・謙譲語2・丁寧語・美化語)に照らし合わせると、「申し付かる」は文脈によって役割が変わる可能性があります。文法的に厳密に考えると、受身形になっているため、話し手が行為者ではないという点で典型的な謙譲語1とは異なる特徴を持っています。

現代の日本語学では、このような敬語の複雑な用法について研究が進められており、従来の分類では説明しきれない表現も多いとされています。「申し付かる」もそうした表現の一つと言えるでしょう。

「申し付かる」は謙譲語か丁重語か尊敬語か

「申し付かる」の敬語分類については、言語学者の間でも見解が分かれる難しい問題です。この表現を理解するには、まず「申す」が「言う」の謙譲語である点に注目する必要があります。しかし、「申し付かる」という複合形になると、単純な謙譲語とは言い切れない性質を持ちます。

文化庁が公表している敬語の5分類(尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語)に基づいて考察すると、「申し付かる」は複数の要素を含んでいると考えられます。「申す」という部分は謙譲語の要素ですが、全体としては謙譲語Ⅱ(丁重語)に近い性質を持つという見方が有力です。

謙譲語Ⅰは相手や第三者を高めるために自分の行為を低める表現である一方、謙譲語Ⅱ(丁重語)は話し手が自分の行為を丁重に表現することで間接的に相手への敬意を示す表現です。「申し付かる」は「言われる」を丁重に表現している点で、丁重語的な性質を持つと言えます。

実際の使用場面を考えると、「社長より申し付かっております」という表現では、社長(第三者)の行為を直接高めているわけではなく、自分が受ける行為を丁重に表現することで、聞き手に対する敬意を示しています。この点では丁重語の特徴を持ちます。

一方で、「申し付かる」の「申し」の部分に注目すると、社内の人間(身内)の言動を謙譲表現で表すことで、外部の人間(顧客など)への敬意を示すという、典型的な謙譲語の用法とも一致します。

言語学的には、「申し付かる」は古語「申しつく」の受身形であり、そこには「申す」(謙譲語)+「つく」(付ける・命じる)+「る」(受身)という構造があります。この複合的な構造が敬語分類を複雑にしている要因です。

ビジネスシーンでの「申し付かる」の正しい活用例

ビジネスシーンでは「申し付かる」を適切に活用することで、丁寧さと専門性を同時に表現できます。代表的な活用例として、顧客対応の場面で「部長より申し付かっております」と言うことで、社内の指示系統を尊重しつつ顧客への敬意も示すことができます。

電話応対では特に重要な表現となります。「お客様からのご要望は担当者より申し付かっております」と伝えることで、顧客の要望を社内で適切に共有していることを示せます。このように顧客と社内の橋渡し役として機能する表現と言えるでしょう。

会議や商談の場でも活用できます。「このプロジェクトについては社長より申し付かっており、全力で取り組むよう指示を受けております」といった表現は、プロジェクトの重要性を強調するのに効果的です。

文書でのビジネスコミュニケーションにおいても「申し付かる」は有用です。メールやビジネス文書で「ご依頼の件につきましては、担当部署より申し付かっており、現在対応を進めております」のように使用できます。

具体的な業種別の活用シーンとしては以下が挙げられます:

  • 金融機関での顧客応対:「融資担当より申し付かっております案件」
  • ホテル業での接客:「総支配人より申し付かっております特別サービス」
  • 小売業での顧客対応:「店長より申し付かっております特別割引」
  • 製造業での取引先対応:「品質管理部より申し付かっております検査手順」

状況によっては別の表現が適切な場合もあります。社内のカジュアルな会話では「言われている」「頼まれている」のほうが自然に聞こえることもあります。相手との関係性や場の雰囲気に合わせて使い分けることが大切です。

「申し付かる」に含まれる上下関係のニュアンス

「申し付かる」という表現には、微妙な上下関係のニュアンスが含まれています。この言葉を使用すると、指示を出した人物(〇〇より)と指示を受けた話者との間に上下関係があることが暗示されます。そのため、同僚間の対等な関係での使用には違和感が生じることがあります。

ビジネスシーンでの上下関係の表現は繊細な問題です。「申し付かる」を使うことで、話者は自分を謙虚な立場に置き、指示をした人物(上司など)と顧客両方に対して敬意を示しているとも解釈できます。この三者関係(話者・指示者・顧客)の中での適切な敬語使用が求められます。

組織内での役職や立場によっても「申し付かる」の使用感は変わります。部長クラスの管理職が「社長より申し付かっております」と言うのは自然ですが、課長が同じ部署の係長について「係長より申し付かっております」と言うと違和感があります。組織内の公式な上下関係に沿った使用が望ましいでしょう。

文化的背景としては、日本の伝統的な「謙遜の美徳」と関連があります。自分を低く位置づけることで相手への敬意を表す日本的なコミュニケーションスタイルの一環として「申し付かる」のような表現が発達してきました。

「申し付かる」の使用に関する世代差も見られます。年配のビジネスパーソンはこの表現を自然に使用する傾向がある一方、若い世代ではより直接的な表現を好む傾向があります。年代によるコミュニケーションスタイルの違いを認識しておくことも重要です。

「申し付かる」の代替表現と言い換え

「申し付かる」は正式な場面で使われる敬語表現ですが、状況によっては別の表現の方が適切な場合があります。話す相手や場面に応じて言い換えることで、より自然なコミュニケーションが可能になります。一般的な代替表現には「承っております」「伺っております」「言付かっております」などがあります。

これらの表現はそれぞれ微妙にニュアンスが異なり、使用場面も変わってきます。例えば「承っております」は顧客からの依頼を受けている場合に適し、「伺っております」は情報を聞いている場合に適しています。状況に合わせて最適な表現を選ぶことがビジネスコミュニケーションでは重要です。

言い換え表現を使いこなすことで、コミュニケーションの幅が広がり、相手に与える印象も柔軟に調整できます。ただし、どの表現を選ぶにせよ、基本的な敬語のルールを理解していることが前提となります。

「承っております」「言い付かっております」との使い分け

「申し付かる」と似た機能を持つ表現として「承っております」「言い付かっております」があります。これらの表現は状況によって使い分けることで、より適切なコミュニケーションが可能になります。

「承っております」は「聞く」の謙譲語「承る」を用いた表現で、主に顧客からの依頼や要望を受けた際に使用します。例えば「ご注文は既に承っております」のように、直接顧客から聞いた内容について言及する場合に適しています。一方、「申し付かる」は第三者からの指示について言及する場合に使うため、使用場面が異なります。

「言い付かっております」は「申し付かる」よりもカジュアルな表現です。意味は似ていますが、「申し」が「言い」になることで格式が下がります。比較的気軽な取引先との会話や、それほど改まった場面でない場合に適しています。「部長より言い付かっております」という表現は、「申し付かっております」ほど堅苦しくない印象を与えます。

状況別の使い分けのポイントは以下の通りです:

  • 高級ホテルや金融機関など格式高いビジネス場面:「申し付かっております」
  • 一般的な企業間の取引:「言い付かっております」「承っております」
  • 顧客から直接依頼を受けた場合:「承っております」
  • 社内で情報を聞いた場合:「伺っております」

これらの表現を使い分ける際の留意点としては、相手の立場や場の雰囲気を考慮することが重要です。過度に格式高い表現は時に距離感を生み出してしまうことがあります。「申し付かる」は特に格式高い表現なので、カジュアルな関係性の中では違和感を与える可能性があります。

実際のビジネスシーンでは、会社の業種や社風、取引先との関係性などによっても適切な表現は変わります。日常的にどのような表現が使われているかを観察し、その環境に合わせた表現を選ぶことが大切です。

「言付かる」「仰せつかる」など類似表現との比較

「申し付かる」と似た機能を持つ表現に「言付かる(ことづかる)」と「仰せつかる」があります。これらの表現は語源や使用場面、格式の面で微妙な違いがあります。

「言付かる」(ことづかる)は「伝言を頼まれる」という意味で、主に伝言の伝達に焦点を当てた表現です。「申し付かる」が指示や命令のニュアンスを含むのに対し、「言付かる」はより中立的な伝言の意味合いが強いです。例えば「社長より言付かっております」と言うと、社長からの伝言を預かっているというニュアンスになります。

「仰せつかる」は最も格式高い表現で、「言う」の尊敬語「仰せる」を用いています。通常、目上の人から重要な任務や責任を与えられた場合に使用します。「社長より仰せつかっております」という表現は、社長から直接重要な指示や任務を与えられたという意味になり、話者の責任の重さを強調します。

それぞれの表現の格式の高さを比較すると:
「仰せつかる」>「申し付かる」>「言付かる」>「言い付かる」
という順序になります。場面や相手との関係性に応じて適切な表現を選ぶことが重要です。

語源的な観点からの違いも興味深いです。「仰せつかる」は「仰せる」(尊敬語)+「つかる」(受身)、「申し付かる」は「申す」(謙譲語)+「つかる」(受身)という構成になっています。つまり、「仰せつかる」は相手の行為を高めているのに対し、「申し付かる」は自分側の行為を低くしているという違いがあります。

これらの表現を文書で使用する場合の注意点として、フォーマルな文書(契約書や公式文書など)では「仰せつかる」「申し付かる」が適しており、社内文書や一般的なビジネスメールでは「言付かる」「言い付かる」が自然な場合が多いです。

顧客対応時の適切な敬語選びのポイント

顧客対応において適切な敬語を選ぶことは、プロフェッショナルな印象を与え、信頼関係を構築するために重要です。「申し付かる」をはじめとする格式高い表現を使用する際のポイントをいくつか紹介します。

第一に、顧客のタイプや業界に合わせた敬語の選択が重要です。保守的な業界(金融、法律など)では「申し付かる」のような格式高い表現が適している一方、クリエイティブ業界ではより親しみやすい表現が好まれる傾向があります。顧客の社風や価値観を理解し、それに合わせた言葉遣いを心がけましょう。

第二に、伝える内容の重要性や公式性に応じた表現選びが必要です。重要な契約内容や公式な決定事項を伝える場合は「申し付かる」「仰せつかる」などの格式高い表現が適しています。一方、日常的な問い合わせや簡単な確認事項であれば「伺っております」「聞いております」といったカジュアルな表現で十分です。

顧客との関係性の深さや取引の継続期間も考慮すべき要素です。長期的な取引関係にある顧客には、関係性に応じた適切な距離感の表現を選ぶことが大切です。初めての取引では丁寧すぎるくらいの表現を用い、関係が深まるにつれて少しずつカジュアルな表現を取り入れていくといった調整が効果的です。

顧客対応における敬語選びの具体的なポイントとして:

  • 顧客の年齢層や立場を考慮する
  • 業界特有の言い回しや慣習を理解する
  • 自社内での一貫した敬語使用を心がける
  • 過度に古風な表現は避ける
  • 文脈に応じて適切な言い換えを行う

言葉遣いは会社の顔でもあります。特に「申し付かる」のような特徴的な表現は、使い方次第で洗練された印象にも不自然な印象にもなり得ます。社内での研修や先輩社員のアドバイスを参考にしながら、自然な敬語使用を身につけることが大切です。

職場での「申し付かる」の実例と注意点

実際の職場での「申し付かる」の使用例を見ていくと、業界や企業文化によって様々な傾向があることがわかります。伝統的な業界や大企業では比較的頻繁に使われる傾向がある一方、スタートアップやIT業界ではあまり見かけない表現となっています。特に接客業や秘書業務など対外的なコミュニケーションが重要な職種では重視される傾向があります。

この表現を使う際の注意点としては、相手や状況に応じた適切な使い分けが挙げられます。過度に堅苦しい印象を与えることもあるため、カジュアルな社風の企業ではより自然な言い回しに置き換えることも検討すべきです。

言葉の選択は単なる形式ではなく、コミュニケーションの質に直結する重要な要素です。「申し付かる」の適切な使用法を理解することで、ビジネスの場での円滑なコミュニケーションに役立てましょう。

同僚間での「申し付かる」使用の適切性

同僚間のコミュニケーションにおいて「申し付かる」を使用することは、状況によっては不自然に感じられることがあります。同僚同士の関係性は基本的に水平的であるため、上下関係を暗示する「申し付かる」の使用は慎重に考える必要があります。

特に社内の日常会話では、「〇〇さんから頼まれた」「〇〇部長に言われた」などのカジュアルな表現の方が自然です。「申し付かる」を使用すると、不必要に距離感が生まれたり、上下関係を強調しすぎたりする可能性があります。

ただし、同僚間でも状況によっては「申し付かる」が適切な場合があります。例えば顧客を交えた会議の場で、同僚からの指示について言及する場合は「山田より申し付かっております」と言うことで、顧客に対する敬意を表現できます。この場合、同僚との上下関係ではなく、顧客への敬意が優先されます。

企業文化や部署の雰囲気によっても使用感は変わります。伝統的な企業や格式を重んじる部署では、社内コミュニケーションでも敬語表現が一般的かもしれません。一方、カジュアルな社風の企業では、過度に格式高い表現は違和感を与える可能性があります。

同僚との日常的なコミュニケーションでは、以下のような言い換え表現が自然です:

  • 「田中さんから聞いています」
  • 「佐藤部長に頼まれました」
  • 「営業部から連絡を受けています」
  • 「プロジェクトリーダーの指示で動いています」

重要なのは、相手や場面に応じた適切な言葉選びです。社内でのカジュアルな会話と、顧客を交えた公式な場面では、同じ内容を伝えるにしても異なる表現を使い分けることがプロフェッショナルな対応と言えます。

実際の職場での使用例として、会議の場での「このプロジェクトについては事業部長より申し付かっております」という表現は、プロジェクトの重要性や公式性を強調する効果があります。一方、昼食時の雑談で「それ、部長から申し付かっているんだ」と言うと、不自然な距離感が生まれる可能性があります。

「申し付かる」を適切に使用するためには、自社の社風や組織文化を理解することも大切です。言葉遣いは会社の文化を反映するものであり、その会社らしい自然なコミュニケーションスタイルを身につけることがビジネスパーソンとしての適応力を示します。

顧客に対して社内の伝言を伝える際の敬語表現

顧客に対して社内の伝言や指示内容を伝える際には、適切な敬語表現を選ぶことが重要です。「申し付かる」はこうした場面で活用できる表現の一つですが、状況に応じた使い分けが求められます。

顧客に社内の伝言を伝える基本的な考え方として、「社内の人間(身内)を下げ、顧客を立てる」という原則があります。これは日本の敬語の基本的な考え方でもあります。「申し付かる」を使う場合、例えば「営業部長より申し付かっております」という表現は、社内の人間(営業部長)の行為を謙譲表現で表すことで、間接的に顧客への敬意を示しています。

顧客のタイプや重要度に応じた表現選びも大切です。VIP顧客や重要取引先に対しては「社長より特に申し付かっております」など、より丁寧な表現を用いることで特別感を演出できます。一方、長期的な取引関係にある顧客には、過度に堅苦しい敬語は避け、「担当部長からお伝えするように言われております」など、親しみやすさと敬意のバランスが取れた表現が適しています。

伝えるべき内容の性質によっても表現は変わります。良いニュースを伝える場合は「ご要望通りの対応ができるよう、担当者より申し付かっております」と前向きな表現を用い、残念なお知らせの場合は「誠に恐縮ではございますが、社内で検討した結果、現状では難しいとの結論に至りました」など、「申し付かる」よりも柔らかい表現を選ぶことがあります。

実際の接客シーンでは、以下のような表現パターンが効果的です:

  • 要望への対応:「ご要望の件、責任者より申し付かっております」
  • 価格交渉:「特別価格についてはこの度限り、上長より申し付かっております」
  • 納期調整:「納期短縮については工場長より申し付かっております」
  • クレーム対応:「ご不便をおかけしたことにつきまして、品質管理部より改善策を申し付かっております」

伝言の伝達方法も重要です。単に「〇〇より申し付かっております」と言うだけでなく、「〇〇より申し付かっており、責任を持って対応させていただきます」など、フォローアップのメッセージを添えることで、より誠実な印象を与えられます。

「申し付かる」を使う際の一般的な誤用パターン

「申し付かる」は適切に使用すれば丁寧な印象を与える表現ですが、いくつかの一般的な誤用パターンがあります。これらを理解して避けることで、より洗練された言葉遣いが可能になります。

最も多い誤用は、「申し付ける」と「申し付かる」の混同です。「申し付ける」は自分が指示を出す場合、「申し付かる」は指示を受ける場合に使用する表現です。「お客様に特別対応を申し付かります」は誤りで、正しくは「お客様に特別対応を申し上げます」あるいは「上司より特別対応を申し付かっております」となります。

次に多いのが、「申し付かる」の使用場面の誤りです。この表現は主に第三者からの指示を顧客に伝える場合に適しています。「お客様より申し付かっております」のように顧客自身からの指示に対して使用するのは不適切です。この場合は「承っております」が正しい表現です。

文法的な誤用もよく見られます。「申し付かされております」「申し付けさせられております」のような二重使役・受身表現は冗長で不自然です。「申し付かっております」がシンプルで正確な表現です。

敬語の過剰使用による違和感も注意すべき点です。例えば「田中様より佐藤様に申し付かっております件」のように、関係のない第三者同士の関係に「申し付かる」を使うと不自然です。この場合は「田中様から佐藤様への伝言です」などと簡潔に表現するほうが良いでしょう。

敬語表現の不一致も避けるべき誤用です。「部長より申し付かって、言っときます」のように、フォーマルな「申し付かる」とカジュアルな「言っておく」を混在させると違和感があります。一貫した敬語レベルを維持することが重要です。

「申し付かる」に関連する誤用を避けるためのチェックポイント:

  • 誰が誰に対して行う行為か明確にする
  • 相手との関係性に合った敬語レベルを選ぶ
  • 過剰な敬語表現を避ける
  • 前後の言葉との敬語レベルの一貫性を保つ
  • 必要以上に古風な表現は避ける

「申し付かる」は適切に使えば効果的な敬語表現ですが、誤用すると不自然な印象を与えかねません。基本的な敬語のルールを理解し、場面に応じた適切な使い分けを心がけることが大切です。自信がない場合は、より一般的な「伝えられております」「聞いております」などの表現を選ぶのも一つの方法です。

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